「さ入れ言葉」にご用心!

拙著『合格論文の極意』(学陽書房)には、「職場に転がっている問題点を盛り込む」という項目がある。 それを読んでくれた主任試験の受験者が、昨年8月、添削してほしいと論文を持ってきた。

使い古されたフレーズを並べて当たり障りのない内容で書かれている横並び論文が多い中で、 当事者意識が高い説得力のある論文は採点官にとってキラリと光る存在であり、 そういった論文に出合うと喜びを感じるものである。 そのような論文を書こうとした努力は素直に認めてあげたいところだが、 正しい日本語表現になっていないという致命的なミスを彼女は犯していた。

毎年、受験シーズンが近づいてくると受験者に口を酸っぱくして伝えているのは、「書き出し三行でライバルに差をつけよう!」ということだ。彼女の場合は、窓口でのトラブルを書き出し三行に盛り込んだ。 そして、書き出し部分のエピソードを「いくら説明しても、お客様は納得しなさそうだった。」という表現で結んだ。

彼女の致命的なミスというのは、「さ入れ言葉」だ。 近年の受験者は、「ら抜き言葉」と同様に「さ入れ言葉」を使う人がとても多い。 話し言葉の場合は、さほど気にならないのだが、 昇任試験論文で「活字」にしてしまうと、たちまち違和感が出てきてしまう。

では、どう書けば良かったのか。 「いくら説明したとしても、お客様は納得しなそうだった」と、「さ」を入れずに書くべきだったのだ。 形容詞の否定形は「さ」が入り、動詞の否定形は「さ」が入らない。 「動詞さなし」と覚えればよいだろう。

 納得しない(動詞:さなし) ⇒ 納得しなそうだ
 怒らない (動詞:さなし) ⇒ 怒らなそうだ
 寒くない (形容詞:さあり)⇒ 寒くなさそうだ 
 間違いない(形容詞:さあり)⇒ 間違いなさそうだ

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